刺しゅうの手引き

 

戸塚貞子のひとはり日記

糸のお話し
―――― はじめての一本 ――――

普段私たちが大切に使う刺しゅうの糸。
もう長いお付き合いになります。
ご存知の方も多いかと思いますが、「コスモ」というブランドで、
かれこれ60年ほどのお付き合いになるでしょうか?
思えば家族、主人との付き合いよりも長い。


生い立ちや糸の品質、これらのことは難しいお話しになりますので、
詳しいことはまたの機会にお教えいただくとして、
とても手に馴染み、何よりほとんど色落ちのない立派な糸です。
馴染む、少々抽象的な言い方かもしれませんが、
長く使っているので慣れる、習慣によって馴染む、
ということでもなく、
手にした感覚がとてもしっくりとした感があります。

初めて糸を手にした頃の感覚で、実は以来、
この時の感覚を今でも大事にしながらコスモ刺しゅう糸とお付き合いしています。

一本の糸はとても繊細で細いものですから、
実際に刺しゅうをする時はこの糸を何本か束ねて使うことが多いですね。
3本を束ねて3本どり、細かい刺しゅうには2本どり、
ボリュームを持たせたい時は6本どり、
と作品によって使い分けます。

一本の糸を様々に変化させながら、
少しづつ刺し埋めていくこと、
これが刺しゅうの醍醐味かもしれません。

一本という言葉にはいろんな意味があります。
糸を数える時にも一本。
柔道や剣道で技がきまると一本。
一つのことを思い込む性格を一本気。
ただただ押し通すことを一本槍。
私の一本とは?
よくよく考えるとこれら全てに当てはまる一本なのかもしれませんね。

刺しゅうの一歩はこの一針からはじまります。
針に糸を通す時、そしてはじめの一針には思い込みと押し通す勇気を。
思い込みは大事です。
幸い、刺しゅうの一本はまた刺し直しのできる一本ですから。
このこともまた大切です。

そして何より初めて糸を手にした時の感覚を思い出し、
完成の頃の作品を描きながら、
一本の糸に思いを込めることがとても大切に思います。

はじめての一歩は思い切って柔道の技を決めるように一本!
このスタートから全てがはじまります。
できあがる頃の作品を思い描きながらワクワク、ドキドキ。
はじめの一歩が何より楽しみに感じています。

夏の終わりには何故か少し寂しさも感じます。
それでもまた秋には秋の楽しみもあり、
食べることもまた一つです。
そして秋の夜長は存分に刺しゅうを楽しむことにしましょう。

                                    戸塚貞子
2009年10月06日|01)戸塚貞子のひとはり日記 コメント(0)

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